東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1142号 判決 1974年8月29日
理由
一、(省略)
二、以上の事実によれば、被控訴人斎藤と控訴人間の本件根抵当権の順位譲渡の約定は、控訴人が同被控訴人に対し資金融通の方法として、右認定にかかる金額各一〇〇万円の約束手形三通((イ)(ロ)(ハ))を割引き、その割引金の支払をなすことを停止条件としているものと解すべきであるところ、そのうち一通については既に履行ずみであることは、前記判示中で認定したとおりである。
そこで、控訴人が残り二通についても、右割引金の支払を履行したかどうかについて検討すると、先ず、控訴人はその本人尋問において同人は昭和四四年九月三〇日に被控訴人斎藤から前記約束手形三通を受け取るも、その日に同被控訴人に渡した現金は一〇〇万円である旨供述し、したがつて残り二通の約束手形の割引については、その手形の交付とそれに対する割引金の授受とが同時履行の関係にたたなかつたことは明白である。そして、《証拠》によると、控訴人は、同年一〇月一日に更に被控訴人斎藤に対し現金一〇〇万円を交付したとするほか、訴外山村秋子が持参した被控訴人斎藤裏書にかかる振出日昭和四四年一〇月一五日、満期同年一一月三〇日、金額一〇〇万円なる約束手形を、右訴外人に対し割引いてやり、その結果これを含めて右被控訴人に対する三〇〇万円の資金融通の履行を果たしたことになると考えていることが認められるが、右手形は前記(イ)(ロ)(ハ)の三通の手形とは全く別個の手形であり、割引金を交付した相手方も被控訴人斎藤とは異る右訴外人であるから、これをもつて同被控訴人に対する前記手形割引の約定の履行であるとするのは全く牽強附会であつて、これが該約定による債務の履行でないことは言うを俟たない。すると残り一通の問題となるが、《証拠》によれば、控訴人は、被控訴人斎藤の意を体して手形の返還を要求しに来た右衣川文子に対し、前記(イ)の手形を返還したことが認められる。以上の各事実ならびに被控訴人斎藤の供述に徴すると、控訴人が残り二通の約束手形について割引の約定を履行したとの事実は、これにそう控訴人の供述にもかかわらず、到底これを認めることはできない。
三、かくして、控訴人は被控訴人斎藤との間で約定した合計三〇〇万円の約束手形の内一〇〇万円しか割引金を交付せず、したがつて抵当権の順位譲渡の停止条件もこの限度でしか成就しなかつたのであるが、右条件は数額的に可分な事実が条件とされ、且つ契約当事者の意思として、条件の一部でも成就しないときには、なお全体としてその目的を達し得ないものであるとする程不可分的なものとは認められないから、一部条件が成就した限度で順位譲渡の効力が生じたものと解するのが相当である。
すると、被控訴人斎藤の控訴人に対する抵当権の順位譲渡は、結果的に一部譲渡をしたこととなる。そして、それは順位の全部譲渡の停止条件の三分の一成就によるものであるから、三分の一という割合による順位の一部譲渡と解すべきである。このように、抵当権の順位が三分の一の割合だけ譲渡された場合、本来順位譲渡抵当権者がその順位において受けるべき配当金額に対して、順位譲受抵当権者と順位譲渡抵当権者とは、同順位で一対二の割合をもつて配当を受けると解するのが相当である。
四、つぎに、本件(一)(二)の物件につき、昭和四四年一一月二八日長野地方法務局松本支局受付第二二五三五号をもつて被控訴人斎藤から被控訴人角田に対し金四五〇万円の限度で根抵当権一部移転の付記登記がなされていることは当事者間に争いがなく、右事実と、《証拠》を総合すると、被控訴人斎藤は被控訴人角田に対し、本件(一)(二)の物件について有する根抵当権を、後記認定(原判決理由第六項(3)記載)の債権を譲渡することによりこれに随伴して一部移転すると共に、併わせて従来無担保債権者であつた同人に対し、確定元本債権額金七五〇万円の内金四五〇万円の限度で、右根抵当権の一部譲渡をしたことが認められる。その結果、被控訴人両名は、右根抵当権を被控訴人斎藤が二、被控訴人角田が三の割合で準共有するに至つたものである。
五、おわりに、控訴人及び被控訴人両名がそれぞれ有する本件根抵当権の各被担保債権に関する認定は、
(一) 原判決一〇枚目裏六行目冒頭及び一一枚目表三行目冒頭にそれぞれ「前顕甲第一、二号証及び」を挿入し、
(二) 同一〇枚目裏七行目「第二裏書部分」を「第二、第三裏書部分」と、同九行目「甲第四号証」を、「乙第四号証ならびに前顕乙第五、六号証(乙第五号証の付箋部分の成立は弁論の全趣旨による)と右証人の証言」とあらため、
(三) 同一〇枚目裏末行「日歩九銭八厘」を「日歩五銭」とあらため、
(四) (省略)
ほかは、原判決理由第六項(1)(2)(3)(原判決書一〇枚目裏五行目から一一枚目裏五行目まで)の記載と同一であるからこれを引用する。
六、そこで、前記本件配当表において第五順位で配当さるべき金額として計上されたところの金三三八万二三一一円を、前記認定の本件各当事者の有する割合によつて按分すると、控訴人は右金額の三分の一たる金一一二万七四三七円、被控訴人らは右金額の三分の二を準共有持分の割合にしたがつて被控訴人斎藤において金九〇万一九五〇円、被控訴人角田において金一三五万二九二四円を、それぞれ配当金としてその交付をうけるのが正当である。
ところが、右結論は、原判決の結論より控訴人に不利、被控訴人らにとつて有利となり、附帯控訴のない本件では、訴訟法上、このように変更することは許されない。
したがつて、結局本件控訴は理由がない。よつて本件控訴を棄却
(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 舘忠彦 安井章)